車いす3×3イベント「Push Up」が初開催……3人制をきっかけに、車いすバスケが広がる未来へ
車いすバスケットボールと3×3の魅力がハーフコートにギュッと詰め込まれてる――「車いす3×3」を初めて見た印象だ。5人制よりもコートと観客の距離が近く、きっと一度見ただけでも、印象に残る選手やプレーが多い。初開催されたイベントを見ながら、車いすバスケが、3人制と相性が良いという記憶も蘇ってきた。さらなる競技の発展へ、新たな一歩が踏み出された。
車いすバスケと3×3の融合
10月30日に千葉みなとさんばしひろばで「Push Up」(プッシュアップ)が開催された。これは、車いすバスケットボールと3人制バスケットボール“3×3”(スリーエックススリー)が融合した「車いす3×3」のイベント。選手たちによる試合は、両競技の特徴が感じられ、とても見ごたえがあった。
車いすと一体になった選手たち同士が、目の前でディフェンスやリバウンドなど球際の争いで激しくぶつかり合い、ルーズボールにも果敢に飛び込んでいく。あわやテーブルオフィシャルへ突っ込むんじゃないかと思うような場面もあった。健常者の3×3もコンタクトの激しさがあるものの、車いす3×3も圧巻の迫力。3人のコンビネーションで得点を奪うプレーも鮮やかだった。
この日は6チームによって優勝が争われ、見事にチャンピオンボードを掲げた共生社会は全員が、車いすバスケットボールチームの埼玉ライオンズの所属選手たち。東京パラリンピック(TOKYO2020)に出場した赤石竜我(#1)は巧みな車いす操作でペイントエリアに進入し、シュートやパスを繰り出せば、そのパスを受けた同じくパラリンピアンの財満いずみ(#9)が1点を確実に決めた。北風大雅(#10)は、3×3の攻防で鍵を握る2ポイントシュートをよく決めるなど、チームの連携は抜群だった。
車いすバスケットボールの持つ迫力と、車いす操作の妙。それに、3×3の見どころであるパスワークや息のあったプレーの連続性が、ハーフコートにギュッと詰め込まれてるのが、車いす3×3を初めて見た印象だった。
「日常に車いすバスケットを浸透させていきたい」
イベントの発起人は、鳥海連志と西村元樹氏の2人である。鳥海は、TOKYO2020でMVPに選ばれ、男子代表の銀メダル獲得に貢献した選手。西村氏は、車いすバスケットボールチーム「パラ神奈川 SC」の代表理事を務める。彼らは、TOKYO2020をきっかけに、車いすバスケを知る人が増えていると実感したものの、会場に足を運ぶ人が増えたかと言えば、それはまだ一握りであるとも感じていた。ファンの視点に立てば、大会を知る、チケットを手配する、行く準備をするなど、試合を実際に見てもらうまでには「いろいろなステップ」があった。
そこで、より身近で、親近感のある大会を作りたいと思い、2人はPush Upの構想を練った。開催への思いについて、鳥海は「まず、外でやりたかったです。今日も、近くのドッグラン(イベント)で遊んでいる方がワンちゃんと足を止めてくれたり、この辺で散歩やランニングをしてる人たちがふらっと寄ってくれました。街中や日常に車いすバスケットボールを浸透させていきたい気持ちがありました」と明かした。
そして、2人の思いを形にしていったのが、国内で3×3に携わってきた者たちだった。Push Upの会場手配や競技運営などを取り仕切ったのは、岡田慧氏。“ちゃん岡”の愛称で、これまで数々の3×3イベントを手掛けてきた。鳥海も西村氏も「本当に心強くてスゴい方と出会いました!」と、信頼を置く。
さらに、両者をつないだ人物が、岩下達郎氏。2014年から約8年間、3×3プロチームのTOKYO DIMEで活躍し、日本一も経験した競技シーンの黎明期を支えた第一人者だ。今春、現役を引退したが、車いすバスケをやるイベントで鳥海と知り合い、彼の相談をちゃん岡へ橋渡しした。
「やり切った」「安堵した」……1日を終えて
そんな運営側も車いすバスケと、3×3がガッチリとタッグを組んだだけあって、この日は大成功と言っていいぐらい盛り上がった。時間を追うごとに、少しずつコートを取り囲む輪は大きくなり、選手たちはバチバチの試合を披露。イベントのクロージングで、ファンと選手たちによる集合写真の様子は、実に温かい雰囲気に包まれた。1日を終えた鳥海と西村の第一声からは、充実感がひしひしと伝わってくる。
「やりきった。最高だなーって感じです!今まで選手として大会に関わることは多かったんですけど、運営から入っていたので、大会前からバスケだけではなく、いろいろなことをクリアしていかないといけない。そんな中で、これまでにない達成感を味わえて……。面白かったです。大会を開くのも、自分の大会に出るのもめっちゃ楽しいという気持ちが一番大きいです」(鳥海)
「安堵した気持ちが強いですね。いろいろ慌てることもあったんですけど、そんな中でちゃんと形になって、来て下さったファンの皆さんや、参加してくれた選手、運営の方々からも“すごい良かったね”と言葉を頂いたり、楽しそうな顔を見られたりして、ホっとしています。(鳥海)連志と一緒で、こういう感情を味わった経験は初めて。(大会をやることが)すごいハマりそうです(笑)」(西村)
きっかけは五輪から「車いす3×3」へ
初開催されたPush Upは、車いすバスケの魅力を発信する新たな一歩になった。5人制がお馴染みの競技であるが、3人制でも大いに楽しめる。盛り上がった様子を見ると、車いすバスケと3人制の相性が良かったという思いさえ出てきた。
話はさかのぼるが、かつて国内には「LEGEND」と呼ばれる3on3プロリーグがあったわけだが、そのエキシビションゲームで安直樹(現車いすフェンシング選手)が登場したことがあった。場所は、ライブハウスのZeap東京。5人制に比べて選手との距離感が近く、ストリートボーラーに引けを取らないイカツイ風貌も相まって、初めて見た車いすバスケ選手が安であると、いまだに覚えている。Push Upを切り盛りした岡田氏もボーラー時代に、初めて出場したSOMECITYは、車いすバスケとの合同イベントだったそうだ。
そんな昔を踏まえると、いまは全国にSOMECITYも3×3も広がっている時代。車いすバスケットボールが3×3をきっかけに都内のみならず、全国に広がる可能性が大きくあると思わずにはいられない。発起人たちもそんな未来を期待している。
リング1つ、ハーフコートで実施できる3×3の機動力を活かして、西村氏は青写真を描く。
「いま東京パラリンピックで、車いすバスケを知ったという方が多いと思います。ですが、僕たちの目指すところは、Push Upの活動によって、車いす3×3を街中やショッピングモールで見て、カッコいいと思い、興味を持ちましたというファンを増やしていきたいです」
ちなみに、車いす3×3の見どころは、彼らによると大きく2つ。ひとつは、車いすの操作技術。5人制はオールコートでスピーディーな展開が感じられる一方で、3人制ではハーフコートで相手をかわしたり、抜いたりするテクニックがより間近で体感できるという。
もうひとつは、ニューヒーローやニューヒロインの登場が期待できること。通常5人制では障害の程度に応じて、各選手に定められた持ち点の合計がコートの5人総計で14点だが、3×3の場合は8.5点となる。そのため、チーム編成も新たな考えで行われ、5人制で目立たなかった選手の特徴が発揮されたり、3人になることで個々がボールを持つ頻度も増えることで、より一人ひとりにスポットライトが当たる機会が増えるという。
3×3を通して、車いすバスケットボールの魅力が広がっていく。Push Upはそう思わせてくれる1日になった。
【参考】最新情報はPush Up 公式Instagramをチェック @pushup_3x3(リンク外部)
【日程】次回Push Upは10月12日(土)の「SEISA Africa Asia Bridge 2021」内で、開催される予定です。
【写真】10月30日の様子は<<こちらから>>(リンク外部/ちばみなとjp)
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